どんな財産が遺産分割の対象になりますか?そのうちどれだけを貰えますか?
- 先月、父が亡くなりました。相続人は、母(63歳)と私(長男、34歳)の2人です。
父が残した財産は以下のものでした。① 現預金 250万円
② 自宅の土地・建物 1,500万円(時価)
③ 自動車 350万円(時価)
④ その他資産(工具など) 50万円(時価)
⑤ 退職金 1,000万円
⑥ 生命保険金 500万円
⑦ 確定拠出年金 200万円
⑧ 積立投資信託 50万円(時価)母は、もともと父の扶養の範囲内でパートをして収入を得ていた程度であり、母に資産はほとんどありません。そのため、今後の生活に経済的な不安があるようで、母は父の遺産を全て取得したいようです。
法定相続分に従えば、私は2分の1の遺産を受け取れると思いますが、母に全ての遺産を相続させるべきなのでしょうか。
- 遺産分割にあたっては、まず、(1)いかなる財産が遺産分割の対象となる遺産にあたるかを検討する必要があり、(2)遺産の範囲が確定した後に、具体的な遺産分割協議を行います。
以下、ご説明します。1. お父様の財産のうち、何が遺産分割の対象となる遺産に該当するか
① 現預金 250万円
ア 現金
まず、現金は、動産として遺産分割の対象となります。
相続人は、遺産分割をするまでの間は、自己の相続分に相当する現金であっても支払を求めることはできません(最高裁平成4年4月10日判決)。
イ 預貯金
また、預貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものではなく、遺産分割の対象となります(最高裁平成28年12月19日判決)。② 自宅の土地・建物 1,500万円(時価)
土地や建物など不動産は遺産分割の対象となります。③ 自動車 350万円(時価)
自動車は、動産として遺産分割の対象となります。④ その他資産(工具類) 50万円(時価)
工具類なども、動産として遺産分割の対象となります。⑤ 退職金 1,000万円
企業に死亡退職金に関する支給規定がある場合には、支給基準や受給権者の順位などの規定を確認する必要があり、これによって遺産分割の対象となるか否かが決まります。
通常は、労働基準法施行規則42条~45条を引用するなどして、受取人を配偶者と定めていることが多く、その場合には死亡退職金受給権は配偶者の固有の権利となり、遺産分割の対象とはなりません。⑥ 生命保険金 500万円
被相続人が、相続人のうちの誰かを保険金受取人と指定していた場合、指定された相続人が固有の権利として保険金請求権を取得します。
そのため、受取人が指定された生命保険金は遺産分割の対象となりません。⑦ 確定拠出年金 200万円
確定拠出年金法41条により、死亡一時金を受け取ることができる遺族の順位が定められています。また、被相続人が受取人を指定していれば、指定された者が受取人となります。
したがって、死亡一時金請求権は受取人の固有の権利であり、遺産分割の対象となりません。⑧ 積立投資信託 50万円(時価)
判例上、共同相続された投資信託の受益権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものではないとされており(最高裁平成26年2月25日判決)、投資信託は遺産分割の対象となります。2. 遺産総額
以上のことから、お父様が残した財産のうち、①②③④⑧が遺産分割の対象であり、その総額は2200万円です。
3. 具体的な遺産分割協議
本件の場合、お母様の法定相続分が2分の1、子供である相談者様の法定相続分が2分の1であるため、各自1100万円の法定相続分を有します。
したがって、相談者様は確かに1100万円を取得する権利を主張することができます。もっとも、63歳のお母様には、パートによる貯金もほとんど無いようであり、今後の生活に不安を抱えていると思われます。女性の平均寿命88歳まで、あと25年もあるため、お父様が残した遺産をなるべく多く得たいと考えるのは自然なことでしょう。
お母様の老後の生活維持のためにも、お父様の遺産をなるべく多くお母様に相続させるよう配慮してもよいと思います。
お母様とよく話し合った上で遺産分割協議をしてください。以上