外国籍の母が英語で遺言を遺しており、拇印を押していました。これは日本でも有効なのでしょうか?

 先日、母が亡くなりました。
 母は日本に居住していましたが、外国籍であり、主に英語を使用して生活していました。
 そのため、母は生前に日本国内において遺言書を作成していたものの、その内容は全て英語で記載されていました。また、押印も印鑑を使用せず拇印によって押印されています。
 母が遺したこのような遺言書は、日本でも有効なのでしょうか。
 

1. 日本法が適用される。

 遺言の方式の準拠法に関する法律2条は、遺言をなるべく無効としないため、作成された遺言の方式が以下の①~⑤のいずれかに適合する場合には、遺言を有効としています。

〔遺言の方式の準拠法に関する法律2条〕
遺言は、その方式が次に掲げる法のいずれかに適合するときは、方式に関し有効とする。
①行為地法(遺言を作成する地の法)
②遺言者が遺言の成立または死亡の当時国籍を有した地の法
③遺言者が遺言の成立または死亡の当時住所を有した地の法
④遺言者が遺言の成立または死亡の当時常居所を有した地の法
⑤不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法

 したがって、日本に住む外国籍を有する外国人が遺言を作成する場合、日本の民法による方式で遺言を作成しても、本国の法律に基づく方式で作成しても遺言の方式として有効です。
 よって、本件では、お母様は日本国内で遺言を書いていることから、有効です。

 

2. 英語による自筆証書遺言も有効。

 日本の自筆証書遺言の方式について定めた民法968条1項は「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と規定しています。
 同条には日本語で書かなければならないとの規定はないため、英語で自書された遺言も有効です。
 また、裁判例においても、日本に帰化した外国人が英語で遺言書を書いた事案において、遺言は有効であると判断されています(最高裁昭和49年12月24日判決)。

 

3. 拇印による押印も有効。

 判例では、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が遺言の全文、日附及び氏名を自書した上、押印することを要するが(民法九六八条一項)、右にいう押印としては、遺言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺することをもって足りる」(最高裁平成元年2月16日判決)とされています。
 したがって、押印は拇印でも有効です。

 

4. 結論

 以上から、お母様の遺言は、遺言の全文、日附及び氏名をお母様が自書していれば、有効であると考えられます。
 ただし、遺言の方式が有効であっても、「遺言の成立及び効力は、遺言成立当時の遺言者の本国法による」(法の適用に関する通則法37条1項)とされていることから、遺言が法的効力を有するか否かについては、お母様が国籍を有する国の法律により判断されます。

 これは、遺言者の意思能力や遺言の効力発生時期等の問題のことであり、問題となることは少ないと思いますが、念のためお母様の本国法を確認しておくのが無難です。

以上

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