遺言があっても、それに反する遺産分割協議ができるか?

先日、私の母が亡くなりました。私が母の遺品を整理していると、母の通帳と一緒に遺言書が見つかりました。その内容は、預貯金を私に、実家の家と土地を私の妹に相続させる旨の遺言でした。
しかし、私も定年を迎え、実家に帰るつもりであったので、私と妹の相談の結果、預貯金を妹に、実家の家と土地を私が相続した方がいいということになりました。そこで、ご相談ですが、遺言があっても、その内容とは異なる遺産分割協議を行うことはできるのでしょうか。
遺言書と異なる内容の遺産分割協議をすることは可能です。贈与税の課税されないと考えます。
遺言があっても、相続人全員の同意をもって、遺言書の内容と異なる遺産分割協議を行うことはできます。
ただし、遺言に遺産分割を禁止する旨が定められている場合には、遺産分割協議が制限されます。
今回のご相談内容では、遺言に遺産分割を制限する旨定められていないと思われますので、遺言書と異なる内容の遺産分割協議によっても問題はありません。

では、相続人間で、遺言書と異なる内容の遺産分割協議をしても何も問題はないのでしょうか?実は、税法上のリスクはあります。
 相続人に対する「相続させる」旨の遺言がある場合は、遺産分割方法の指定と考えられ、特別な事情がない場合には、直ちにその遺産はその相続人に承継されることになります。
 今回の事例では、相談者様の妹様が、遺言書により、実家と土地の所有権を当然に取得することになります。
その上で、相続人間で、再度遺産分割協議を行うということは、実質的には、遺産分割は既に終了していて、改めて、当事者間で、自分が相続した財産を再度譲渡する合意を行うということになります。
したがって、遺言で、財産が移転したことについて相続税が発生し、再度、遺産分割協議を行ったことにより、贈与税等の税金が課されるのではないかという問題が生じます。
 この点、国税庁のタックスアンサー(No.4176)によれば、『特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言書がある場合に、相続人全員で遺言書の内容と異なった遺産分割をしたときには、受遺者である相続人が遺贈を事実上放棄し、共同相続人間で遺産分割が行われたとみるのが相当です。したがって、各人の相続税の課税価格は、相続人全員で行われた分割協議の内容によることとなります。なお、受遺者である相続人から他の相続人に対して贈与があったものとして贈与税が課されることにはなりません。』との回答があります。
民法986条では、遺贈の放棄に遡及効(遡って効力を生じる)があると規定されています。受贈者が放棄をした場合は、この規定による遡及効によって、遺言による遺贈が遡ってなかったことになりますので、改めて、相続人同士で遺産分割協議を行ったとしても、課税関係は、遺産分割協議による相続税だけが課税されるという結論となります。

参考:民法第986条(遺贈の放棄)

受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

 

 もっとも、通常なされる『相続させる。』旨の遺言は、遺贈ではなく、遺産分割方法の指定と考えられているので、『相続させる。』旨の遺言は、上記の税務署の回答の射程外ではないかとも思われます。
 この点に関しては、以下はあくまで私見ですが、考え方を述べます。
 まず、遺贈と遺産分割方法の指定との違いですが、遺贈は、遺言執行者の執行が必要でありますが、遺産分割方法の指定では、当然に物件の変更が生じると考えらえております。外にも、登記の際に登録免許税額が異なるという違いもあります。よって、遺贈と遺産分割方法の指定とは理論的には異なる制度であるといえます。
 したがって、遺贈の場合に、受贈者が放棄すれば、前記の民法986条によって、遡及的に遺贈がなかったことになるが、遺産分割の方法の指定によって得た相続財産を同上によって放棄できないので、遺産分割の方法の指定によってなされた遺言と異なる遺産分割協議を行った場合には新たな物件変更が生じたとして、改めて贈与税が課税されるとも考えることができます。
 しかし、遺贈であろうが、相続分の指定であろうが、遺言という意思表示を契機として、物件の変動が生じる点については同じであり、実質的に異なるところは何もありません。理論的な理由のみで、遺言書と異なる内容の遺産分割協議を行ったことによって、課税されたり、されなかったりする不平等があってはならないと考えます。
 したがって、国税庁のタックスアンサー(No.4176)の言う、特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言書がある場合だけではなく、『相続させる』旨の遺言書があり、それと異なる遺産分割協議を行った場合でも、贈与税は課税されるべきではないと考えます。
 この点について、争った裁判例は探し出せなかったので、実務上どうなるのかを明確に回答することはできませんが、もし課税されることがあれば、税務署相手に全面的に争いたいと考えています。
 ただし、実務的には、相続させる旨の遺言があり、それと異なる内容の遺産分割協議行されたケースにおいて、相続税を申告する際に、わざわざ遺言書を提出しなければ、税務署は遺産分割協議書しか目にすることはありませんので、問題は生じないと考えます。裁判例がない理由も、ここになるのだと思います。
 仮に、後で、遺言書の存在が税務署に発覚したとしても、贈与税の無申告であるとか脱税であるなどと言われる筋合いではないと考えます。
ご参考にしてください。

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