遺言書の取り扱い(推定相続人が自己に不利な遺言書を見つけたとき)
- 母が特別養護老人ホームに入居することが決まったこともあり、身の回りで入居に際し持っていくもの等の整理中に自筆の遺言書を発見しました。他に何枚か遺言案のようなものあったのですが、私に対する愚痴などが紙面の大半を占めており、不動産などは全て兄に遺贈するといった内容でした。兄が母をそそのかして作らせたものだろうと思うのですが、私は何か対策をとったほうがよいでしょうか。
- 遺言書はいつでも書き直すことが可能で、撤回することも可能です。したがって、お母さんにもう一度自分の意思で遺言書を書きなおして頂くか、公証人役場で公正証書遺言にしていただくことをお勧めします。公正証書遺言の場合、遺言者が高齢で体力が弱り、あるいは病気等のため、公証役場に出向くことが困難な場合には、公証人が、遺言者の自宅又は病院等へ出張して遺言書を作成することもできます。自筆の遺言の場合、握力や視覚等の衰えにより書き直しが困難となることもあるため、公正証書遺言をお勧めします。
保管の面でも、公証人役場に保管されるため、無くしたり破れたりという心配もございません。
また、仮に遺言書の内容がご自身に不都合な内容や非難する内容が書かれてあったとしても、ご自身での書き換えや破棄、隠す等は絶対にやめてください。そのようなことをした場合には、刑法上の罪(私用文書等毀棄罪(刑法259条))に問われるおそれがある他、「相続欠格」といって相続人としての権利を失うこともありえます(民法891条)。
遺言書に関わる相続欠格にあたる事由としては以下のものがあります。
①詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた、②詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた、③相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した、の三つです。
したがって、お母さんに遺言書の書き換えを強引に迫ったり撤回させる、遺言書の偽造・破棄などは絶対にやめてください。
相続欠格となった場合には、その方は初めから相続人でなかったことなり、お子さんが居られる場合にはその子が相続権を有することになります(民法887条)が、居られない場合には「遺留分」(民法1028条以下)といって残された相続人の生活保障等のため一定範囲の財産について取得する権利が保障されているものも請求することができなくなり、完全に相続から排除されることになります。
遺言撤回は自由に行えるのですが、遺言の撤回は遺言の方式に従って行うことが要求されており(民法1022条)、撤回を行った場合に以前の遺言書と現在の遺言書と複数の遺言書が存在することになります。そのような場合でも、ご自身の判断で遺言書を破棄したりすることはやめてください。後に他の相続人から遺言書を破棄したとして相続欠格を主張された場合、遺産分割が長期化するおそれもあります。
内容の新しい遺言書を書く場合や撤回を行う場合は、遺言を書く動機や撤回の理由を記載するなどして、新しい遺言が遺言者の真意に基づくものであるとして、仮に訴訟等になった場合でも主張できますし、遺言者の意思を尊重することにも繋がります。
遺言書の内容については弁護士に相談を、遺言書の作成には公正証書遺言をお勧めします。