任意後見契約の受任者が委任者である母の遺留分を侵害している場合

父親が亡くなって、全財産を長女に遺贈するとの遺言を残しました。相続人は母親と長男と長女の3名です。母親(87歳)は介護施設に入っており、長男、長女と委任・任意後見契約をそれぞれ結んでいます。長女は遺言通りに全部相続する意向です。
この場合、母親と長男は長女に対して遺留分の請求が出来ると思いますが、長女は母親と任意後見契約があるので、母は事実上遺留分減殺請求権を行使できない状況にあります。どのようにすればいいですか?
長女さんとお母さんは利益相反しますので、長男さんがお母さんの受任者として、お母さんと長女さんの利益相反を是正するべき状況にあると思います。
では、どのような是正方法があるでしょうか。
前提として、任意後見制度について解説します。任意後見契約を締結する場合、財産管理等について委任契約を締結し、同時に任意後見契約を締結するケースがあります。任意後見契約は、契約締結当時は判断能力がありますが、認知症等で判断能力が減退した場合に備えて、信頼できる親族等との間で、判断能力が減退した後に残産等の管理を委任する契約です。任意後見契約は公正証書で行う必要があり、公証人の嘱託により法務局で登記されることになります。

そして、委任者が、痴呆症等により、本人の事理弁識能力が不十分となったときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任することになります(任意後見契約に関する法律第4条)。

 任意後見監督人の職務は、任意後見人の事務を監督したり、任意後見人の事務について、家庭裁判所に定期的に報告したり、任意後見人又はその代表する者と本人との利益が相反する行為について本人を代表することなどがあります(同法7条)。

本件の様に、任意被後見人(母親)と任意後見人との間で遺留分減殺請求権の行使が行われる余地があり、利益相反しますので、任意後見監督人が就任していれば、本人である母親を代表して、任意後見人に対して遺留分減殺請求権を行使するべきか否かを検討することになります。

本件では、お母さんと長男さん長女さんとの間で、任意後見契約を締結されておりますが、現在、任意後見監督人が選任されていない状況であると推察されます。
そこで、上記の利益相反状態の是正方法としては、①長男さんが、家庭裁判所に申立て、任意後見監督人を選任してもらい、任意後見監督人がお母さんの遺留分減殺請求権を行使するという方法が考えられます。

また、母親について、未だ任意後見監督人が選任されていない状況である場合は、②長男さんが、家庭裁判所に成年後見を申立てるという方法も考えられます。

任意後見制度と成年後見制度との優先順位についてですが、ご本人の自由意思の尊重という見地から、任意後見制度が優先されます(同法10条)が、本件の様に、未だ任意後見監督人が就任していない状況下であり、遺産が多い場合は任意後見人の利益相反が本人である母親の今後の生活状況に与える影響が大きく、また、その他の事情から長女が母親の任意後見人として職務を行うことが妥当ではないという事情等があれば、「本人の利益のために特に必要があると認めるとき」(同法10条)に該当し成年後見の申立ても可能であると考えられます。成年後見の申立てを行い弁護士等の成年後見人が就任すれば、成年後見人がお母さんの遺留分減殺請求権を行使するか否かを判断することになります。

以上は、お母さんの判断能力が低下した場合を想定していますが、判断能力がまだある場合は、お母さんの意思を尊重することになります。

 最後に、ご質問の、長男が長女と母親との任意後見契約の無効を申立てる方法については、利益相反があったとしても直ちに契約が無効とはなりませんので、その旨ご留意ください。

 ご参考にしてください。

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