母にすべて相続させるために相続放棄してもよいか?

父が亡くなりました。相続人は母と私と兄の三人だけです。父が亡くなったことで、預金口座が凍結されてしまい、父の口座に振り込まれる年金等から生活費を出していた母は、生活費に困ることになるので、早急に遺産分割協議を進めたいと思っていました。
また、これから母も入院や施設の費用など必要になることから母に全ての財産を相続してもらおうと考えています。
 しかし、遺産分割協議を行うために印鑑証明書の取得や署名捺印など年を取った母に手間を掛けさせるのも大変なので、インターネットで検索したところ、相続放棄を行えば、私と兄が相続人でなくなるとのことなので、私と兄が相続放棄を行い、手っ取り早く母だけを相続人としたいと思うのですが、気をつけるべきポイントなどありますか。
 相続放棄を行った場合、お父様の兄弟姉妹がおられればその方が相続人となるおそれがあります。お父様の兄弟姉妹が相続人となった場合、お母様だけに遺産を相続させるためには、お父様の兄弟姉妹に相続放棄をしてもらうか、遺産分割協議をする必要あります。したがって、相続放棄を行った場合、お母様だけを相続人とするという目的を達せない可能性があります。よって、お母様だけに相続させる旨の遺産分割協議書を作成しましょう。

 ある方がお亡くなりになった際に相続人となるのは、まず亡くなった方(被相続人)の配偶者は常に相続人となります(民法890条)。
配偶者以外の相続人は、子がいればその方が相続人となり、親や兄弟は、下記の相続人となる順位の上位順位の相続人がいない場合に初めて相続人となります。配偶者がいない場合には順位の高い方だけが相続人となります。
相続人となる順位としては、第1順位の直系卑属(子等)、第2順位の直系尊属(親等)、第3順位の兄弟姉妹です(民法887条1項、889条1項)。

 相続放棄をすると、初めから相続人とならなかったものとみなされるので、マイナスの財産はもちろんのことプラスの財産についても相続しません(民法第915条、939条)。
相続放棄により初めから相続人とならなかった場合、仮に上記相続人となる順位の第1順位の方が初めからいなかったとして扱われる結果、第2順位、第3順位の方が相続人となります。

 今回のケースでは、相続人として把握されているのが、お母様とお兄さんを含め3人とのことですが、お父様に兄妹などの相続人がいた場合、ご相談者とお兄様が相続放棄をすると、お父様のご兄弟が相続人となります。
お父様の兄妹が全て亡くなっていた場合には、その子が代襲相続人となります(民法887条、889条)。
したがって、ご相談者とお兄様が相続放棄をすると、お母様と甥や姪が相続人となり、遺産分割協議が必要となります。
 そこで相続放棄ではなくお母様を含め3人で遺産分割協議を行い、お母様以外のお二人は財産の分配を辞退する旨の署名捺印を行いお母様だけに財産を相続させることが今回のご相談の目的に合致するかと思われます。

 今回のケースとは離れますが、相続人が被相続人の配偶者とお子さん2人であった場合に、相続放棄により財産を集中させるのがお子さんであった場合は、第一順位の方だけがおられるので、第2の直系尊属や第3順位の兄弟姉妹の方は相続人となりません。
 又、相続放棄は受理されるまでは撤回ができますが、一度受理されてしまうと撤回もできなくなります。このように、相続放棄によるべきか、遺産分割によるべきか、専門家でない方が判断を行うと非常に面倒なことが発生するおそれがあります。一度専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。