不動産の評価に争いがある場合

不動産の評価に争いがある場合

1. 不動産の評価に関する争い

 遺産分割や遺留分侵害請求事件において、不動産の評価が高いか低いかによって、自分の遺産分割や遺留分の侵害請求において受け取ることができる金額が変わります。

 遺産分割で、土地はいらないけどその代わりにお金が欲しいという場合(代償金と言います。)は、土地の評価が高ければ、代償金もその分高額になります。

 また、遺産分割で、複数の土地がある場合、価値の高い土地を欲しがる人は価値の低い土地を取得する人に対して、価値の差額分の代償金を支払う必要があります。なるべく代償金は低い方がいいので、自分の取得する価値の高い土地の評価を下げようとします。

 また、遺留分侵害請求(改正前は遺留分減殺請求と言いました。)をする場合、例えば、遺言で一人の相続人がすべての土地を取得した場合は、その土地を評価して、遺留分(法定相続分×1/2)侵害額を計算し金銭請求(遺留分侵害請求と言います。改正前は価格弁償請求と言いました。)をしますが、遺留分を請求する人は、相手方の取得する不動産を高く評価してなるべく多くの賠償金を得ようとしますし、一方、遺留分を請求される側は不動産を低く評価して、支払うべき額を少なくしようとします。

2. 評価の時点

 不動産の評価時点ですが、遺産分割の場合は遺産分割協議成立時点の時価となります。遺留分侵害請求の場合は死亡時の時価となります。

 ただし、改正前民法(令和元年7月1日以前に死亡した事案)による遺留分減殺請求事件においては、被相続人の死亡時点の評価、価格弁償請求をする場合の、不動産の評価時点は口頭弁論終結時となります。

3. 不動産は同じものは一つもない

 不動産の評価は、時価の評価となります。土地はすべて特定物(同じものは一つとして世の中に存在しません。)なので、土地ごとに異なります。

 単純に広さだけでは決まりません。形状や位置(川の近くか、大きな道路の近くか、池の近くか、山の上かなど)、環境(災害危険区域など)、日当たり(角地かどうかなど)、風通し、行政上の規制(都市計画法による市街化調整区域など)などによっても、評価が異なります。

 隣通しでも土地の価格は異なります。いわゆる旗竿地は狭い通路を通って自分の土地に入りますので、道路に面した土地よりも2割から3割程度安い場合もあります。

 それらの色々な要素を資料から推認して評価します。

 よって、評価する人によって、評価額が変わるのは当然です。

4. 公示価格、路線価、固定資産評価証明

 行政が出している評価もあります。公示価格、路線価、固定資産評価証明です。

 公示価格は、行政が地域のある地点の時価を評価したものです。しかし、実際の取引例と大きくずれているケースも多いのが実情です。公示価格は、地価の急な高騰や下落を抑える目的で作られたものであるため、市場の相場の変動から遅れてゆっくりと上下する傾向にあると言われています。

 路線価は、相続税申告時に基準として使用するために行政が定めた価格です。相続税申告時には路線価を基に計算しないと後で調査を受けたりしますので、路線価に基づいて評価しなければなりませんが、実際の時価からはずれているケースが多いです。また、路線価は、公示価格の約8割とされています。

 路線価がない地域については倍率方式という計算方法で計算しますが、実際の時価からすれば非常に高額となるケースも多いです。

 また、固定資産評価額は、市民税としての固定資産税を計算する際の基準であり、公示価格の約7割と言われています。なぜか、田舎に行くと固定資産評価額は実際の時価よりも高額となるケースもあります。役所としては、固定資産税を多く徴収したいからだと言われています。

 要するに、公示価格も路線価も固定資産評価額も実際の時価とは食い違うということになります。

 実際の時価は、第三者に売却して初めてわかるものであり、売却せずに評価するのは非常に困難なのです。

5. 不動産業者の査定書

 不動産業者がこれぐらいならば売れるであろうという価格を査定(見積もる)してくれますので、それを取り寄せて時価が大凡どれぐらいになるのかを把握することは頻繁に行われています。

 ただし、依頼する人や査定する不動産業者によって、査定価格も大きく異なるのが実際であり、これも実際の時価とは大きくずれるケースもあります。

6. 不動産鑑定士による鑑定評価

 調停や訴訟で不動産の評価に争いがある場合、不動産鑑定士に対し、私的に鑑定を依頼することもよくあります。これを私的鑑定と呼びます。

 調停や訴訟では、双方から不動産業者の査定書が出てくるケースが多いですが、それでも合意できない場合は、不動産鑑定士の私的鑑定意見書を提出して協議します。

 それでも、合意できない場合は、裁判所が選任した不動産鑑定士の鑑定評価を求めることがあります。

 裁判所が選任した不動産鑑定士は、双方から出された私的鑑定意見書も参考として、鑑定意見書を作成します。

 要するに、不動産鑑定士の鑑定意見書が全部で3つ出てくるということも少なくありません。

 3つの鑑定意見書を基に、裁判所が解決案を提示します。

 ただし、裁判所は、裁判所が選任した不動産鑑定士の意見書に沿った解決案を提示するとは限りません。裁判所は、必ずしも、それにとらわれずに、私的鑑定意見書も踏まえて、独自に解決案を考えます。

 また、双方が、私的鑑定書を提出せずに、いきなり裁判所が選任する不動産鑑定士の鑑定意見書の提出を求める場合もあります。

 ただし、裁判所が選任した不動産鑑定士による鑑定意見書の評価額が予想外の評価額である場合もあります。予想外の価格であった場合、結局は、合意できない場合もあります。

 よって、通常は双方から私的鑑定による鑑定意見書を出して、それでも協議が成立しない場合は、裁判所に鑑定士を選任してもらうのが一般的だと言われています。

7. 不動産鑑定士の鑑定費用の負担について

 一方当事者が選任した私的不動産鑑定士の鑑定費用は依頼した個人が負担します。相場は一筆の土地と建物のセットで大凡20万円から50万円程度です。

 評価の難易度や広さなどによっても変動します。

 不動産がいくつもあるケースでは、100万円を超える不動産鑑定費用を負担することになるケースも稀ではありません。

 裁判所が選任した不動産鑑定士の鑑定費用は、当事者双方が折半して負担することになります。

 不動産の筆数が多い場合、不動産鑑定士の費用は高額となります。

 その辺りも考慮に入れて、なるべく早い段階で、合意する方が鑑定費用自体は低くなります。

 ただし、鑑定費用の負担を避けることばかり考えると、不当に高額又は低額の評価で合意することにもなりかねませんので、ある程度の不動産鑑定士の費用負担は覚悟する必要があるとも言えます。

 例えば、全体として不動産の価値が低い物件が多いが、筆数は多い場合は、筆数が多い以上、鑑定費用は高額になります。不動産鑑定士に依頼して意図する評価の意見書を作成したとしても、不動産鑑定士に支払う費用が高額であれば、全体としてかかる支出は高額となる可能性があります。

 また、その評価額通りに合意できるとは限りませんので、せっかく作成した不動産鑑定意見書が実質的に無駄になる可能性もあります。

 不動産に争いがある場合は、①私的鑑定費用と②裁判所鑑定費用を相手方と折半した分の費用を二重に負担することになるケースもあります。

 不動産鑑定費用が高額になる場合は、代理人としても、非常に悩ましく感じることが多いです。

8. 裁判所による協議案や和解案

 私的鑑定意見書や裁判所選任の不動産鑑定士の鑑定評価書に基づいて、裁判所が不動産の評価を行い、それに基づいて、代償金額や遺留分侵害請求額を計算します。

 これに基づく和解案で解決できなければ、審判や判決となります。

 その場合、裁判所の和解案通りの審判や判決となるケースが多いです。

9. まとめ

 不動産は高額なものも多く、その評価が紛争のメイン争点となることが多いです。不動産の評価に争いがあるケースでは、費用も高額となり、解決までに長期間を要するケースが多いです。

 それだけ、不動産の評価は、遺産分割や遺留分侵害請求における請求額に大きな影響を与えると言えます。

以上


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