相続税以外で留意すべき課税リスク(譲渡所得税)について

延滞税・加算税・名義預金にご注意ください

1. 譲渡所得税とは、保有資産の値上がり益への課税制度です。典型例が不動産の譲渡所得税です。

2. 計算方法

譲渡所得は、事業所得や給与所得などの所得と分離(分離課税)し、土地や建物を売った金額から取得費(購入代金)、譲渡費用(仲介手数料)及び特別控除額を差し引いて計算することになっています。
所有期間によって長期譲渡所得(5年以上)と短期譲渡所得(5年以下)の二つに区分し、税金の計算も別々に行います。
長期譲渡所得の場合、税額は、譲渡所得金額×15%(住民税5%)
譲渡所得の特例(特別控除)としては、
㋐居住用財産を譲渡した場合の3000万円の控除の特例
㋑10年超保有の居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の軽減税率の特例(6000万円以下は10%に軽減。原則国税15%。ただし、プラス地方税5%)があります。

3.

譲渡所得の課税原因となる「譲渡」には、無償を含む一切の資産の移転、代物弁済、財産分与(分与者である夫にかかります。)、法人への贈与も含まれます。

一方、相続や個人への贈与により不動産を譲渡しても、譲渡所得税は課税されず、課税が繰り延べられることになります。
よって、相続が発生しても、また、個人へ贈与しても、通常は、譲渡所得税は問題となりません。

4. みなし譲渡による譲渡所得税の課税リスク

㋐法人に対する贈与や遺贈(所得税法59条1項1号)、または、法人に対する資産の低額譲渡(所得税法59条1項2号)
㋒限定承認の場合(限定承認に詳細な説明がありますのでご参照ください。)があります。

5. 法人に対する土地等の贈与や遺贈について

先に述べた通り、相続が発生しても、また、個人へ贈与しても、通常は、譲渡所得税は問題となりません。
しかし、法人へ土地を遺贈したことにより、被相続人に譲渡所得税が課税され、死亡後4カ月以内に準確定申告が必要となります。
また、法人についても法人税が課税されます。
また、相続税の評価方法である路線価による評価は使えず、時価による評価となりますので、通常は相続税評価額より高額となります。
また、法人が相続人から遺留分減殺請求を受け、弁償金の支払いを行った場合、事業年度が変わると法人税の更正の請求は認めらません。また、弁償金相当額について、移転した価格の減額を主張することはできません(最高裁平成4年11月16日)。
また、被相続人が経営する法人が、被相続人所有の土地上に建物を建て、法人から賃料収入があった場合で、その法人に土地を遺贈した場合は、法人に遺贈しなかった場合には、土地について20%の評価減を受けることができたにもかかわらず、法人に遺贈したことによりその評価減も受けることができません。
さらに、法人への土地の遺贈により会社の資産価値が上昇し、これに伴って会社の株価が上昇します。そして、遺言により、株式が長男に遺贈されていた場合には、株価上昇分についてみなし遺贈による相続税が課税されます(相続税法9条、相続税基本通達9-2)。
以上のとおり、法人への遺贈や贈与には、相当のリスクがありますので、決してやってはいけません。 
仮に上記の様に法人に土地を遺贈しなければ、土地は基礎控除の対象となり、妻に遺贈していれば配偶者の税額軽減の適用があり、長男に遺贈していれば小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。

6. 遺産分割で換価分割を行った場合

 換価分割(遺産を売却等で換価した後に、価格を分配する方法)により、相続財産を売却した場合には、相続人全員が譲渡所得の納税義務者となります。
 相続財産の譲渡が相続税の申告期限の翌日以後3年を経過するまでになされた時は、譲渡した相続財産に対応する相続税相当額を譲渡所得税の取得費に加算することができます。これを相続税の取得費加算の特例といいます。
 なお、売却の便宜のために、共同相続人の一人の名義で不動産の相続登記を行うことがよくありますが、単なる便宜上のものですので、贈与税の問題は生じません。

7. 換価分割と小規模宅地(特定居住用宅地等)の特例

 小規模宅地等の特例の内、特定居住用宅地等については、配偶者又は所定の親族が相続又は遺贈により本件宅地等を取得する必要があります(取得者要件)。また、取得者が配偶者以外の親族の場合には、申告期限までに本件宅地を保有していることが要件となっています(保有継続要件)。
換価分割は、相続人が取得する財産は換価代金であり宅地そのものではないことから、取得要件を充たさないと考えられます。
また、申告期限までに換価分割により売却すると保有継続要件を充たさなくなります。
小規模宅地の特例が適用されると評価額が低くなり、相続税の負担が軽くなりますが、換価分割により、負担が重くなることになります。
特例の適用を受けるかどうかにより、換価する財産を決めることは難しいと思われます。実際には、相続人がだれも使用しない不動産を換価分割したいのであり、税金が安くなるからといって、不要な不動産を持っていてもしょうがないからです。
また、相続税の取得費加算の特例の適用は受けることができます。
小規模宅地の特例を利用しつつ、取得費加算の特例の適用も受けることができる状況であれば、なるべくそうした方がいいと思います。

8. 相続で得た不動産等を売却する場合の取得費

土地建物が先祖伝来のもの、また、 買った時期が昔であるため取得費がわからないというケースが、相続で取得した不動産の多くにいえることです。
その場合には、取得費の額を売った金額の5%相当額とすることができます。
父親が30年前に5000万円で不動産を買ったけど、5000万円購入した証拠がない場合、仮に換価分割により、4500万円で売却した場合、本来、譲渡所得税はかかりませんが、5000万円で購入した証拠がない場合、225万円で購入したことになり、課税対象額は4275万円となります。
よって、譲渡費用や特例の適用を考慮できなかった場合、この20%の855万円が譲渡所得税額となります。
相続人の内、誰かが現物分割で当該不動産を取得していれば、譲渡所得税の問題は生じませんので、換価分割は、譲渡所得が生じるという点で相続人に不利な分割方法でありますので、当事務所では、なるべく現物分割又は代償分割による分割方法をお勧めしています。


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