認知症が疑われる親の遺言書

認知症が疑われる親の遺言書

  先月父が亡くなりました。家の片づけを弟夫婦としていると、父の遺言書らしきものが、金庫から出てきました。自筆の遺言だったため、家庭裁判所での検印手続を経たのですが、内容を見て弟が激怒しました。遺産の大半を兄である私に相続させ、弟を責めるような内容でした。
弟は、そのため、しきりに父は生前ボケていただとか、認知症だったから、遺言は無効だと主張しています。
遺言は有効なのでしょうか、無効なのでしょうか。
  遺言書が有効であるためには、遺言書の形式(民法968条以下)を満たしている他、遺言者が遺言作成の時点で一定の判断能力を有している必要があります。
 遺言作成の時点において、そのような判断能力がない場合は、遺言を行う意思能力のない遺言として、無効となってしまいます。この意思能力のことを遺言能力と言います。
 
 通常、人は自身の行動の結果等を予測し行動する意思能力があります。一般的には、15歳以上であれば遺言能力を有しているとされています。しかし、認知症は脳の働きを阻害させ知能等が低下する症状であって、記憶や認知機能に障害がでることが多く、遺言能力への影響が出るケースも少なくありません。
 もっとも、認知症と診断されたからといって、その後に作成した遺言書が全て無効となるわけではなく、遺言者ごとの判断力や遺言時の状況等に照らして、個別具体的に遺言能力の有無を判断することになります。
 遺言能力が争われた裁判例は数多くありますが、これらの裁判でも認知症の程度、病状の変化(「まだら認知」の場合、その日の体調等)、遺言作成の経緯、遺言作成の状況(親族からの強い要望等)、遺言内容が理解できるもの(複雑な所有関係を求めるのや、あまりに多くの技巧的な内容等)であったかというような事情を総合的に考慮して、その遺言を作成する遺言能力が有ったのか、無かったのかが判断されます。
  このように、認知症等の方の遺言の有効性は、様々な事情を基にその有効性を判断することになります。仮に、公証人役場で公証人が作成する公正証書遺言の形式をとったというだけでは、有効であるとは言い切れません。現に公正証書遺言であっても遺言が無効と判断された裁判例も珍しくありません。
 弟さんが、お父さんに遺言能力がないと主張して、遺言の有効性を争う裁判を起こした場合、当時の要介護度や、遺言作成時前後の意思の診断書などで、お父さんに遺言能力があったことを証明する必要があります。
しかし、遺言が作成された時点の遺言能力があることを証明することは非常に難しいため、遺言作成の当日や前日に医者の診断を受けるとか、遺言を作成する場合に弁護士等第三者を関与して行うなど有効性を争い得る客観的な証拠を残しておく必要があります。
ご兄弟は、お父様が遺言を作成していたことも知らなかったので、遺言が作成された時点で遺言能力があることを証明するために、医師の診断を受けさせるということもできなかったはずです。
お父様が遺言を作成した当時の要介護度や遺言作成前後に医師の診断を受けていたような場合は病院からカルテなどを取り寄せるなどして、遺言能力の有無を判断するほかありません。また、遺言の内容が単純な場合、例えば、遺産の全部は長男に相続させる、という内容の場合、比較的有効となる可能性が高いと言えます。また、当時の生活状況、例えば独居生活をしていて、銀行預金の引き出しや預け入れなどを一人でできていたのかなどの事情も間接的な証拠となるので、銀行の取引履歴などを照会してみることも有効です。
あと、もちろん遺言書通りの内容では弟さんに気の毒というのであれば、遺言書の内容と異なる内容の遺産分割協議を行うことも可能です。
ご参考にしてください。

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