老後の財産管理を家族等に託す家族信託
1. 信託とは
信託は、財産権を有する者(委託者)が自己または他人(受益者)の利益のために、当該財産権(信託財産)を、その目的に従って(信託目的)、管理者(受託者)に管理・処分させることを言います。
2. 信託の特徴
特徴としては、委託者から受託者に対して、対象財産権をその名義も含めて完全に移転されてしまうこと(目的財産の完全な移転)、及び移転された目的財産を、受益者のために管理処分するという制約を受託者に課すこと(管理主体と受益主体が分離され、対象財産が目的によって拘束される)という2点にあります。
この場合の所有者を委託者、財産の所有権の移転を受ける人を受託者、移転された財産を信託財産、特定の目的を信託目的といいます。
信託には、有償で行う商事信託、無償で行う家族信託があります。
家族信託は、委託者である財産所有者が、家族や親類、友人等の受託者に財産の所有権を移転し、受託者は、遺言や信託契約に基づいて、信託の目的に沿って、財産を管理処分することを意味します。
3. 家族信託の方法
家族信託の方法は、①契約による場合、②遺言による場合、③公正証書等による宣言による場合があります。①の契約による信託の場合、受益者の死亡により、受益権を承継させることもできますので、実質的に遺言に様な機能を持たせることができます。これを遺言代用信託といいます。ここでは、契約による信託で、遺言の代用として使う信託について説明します。
実施と後妻との間の利益調整のための信託の活用を例にとって説明します。
例えば、高齢である父が自宅と賃貸物件を持っている。後妻がおり最近は少し認知症である。前妻との間に息子がいる。再婚は息子が18歳ころにしたので、後妻と息子は養子縁組していない。
父が自分も高齢なので、息子に財産管理をさせて、自分が健康なうちは、家賃は自分がもらいたい。何年かたって自分が亡くなったら、家賃収入を認知症になった妻の生活費に充てたいと思っている。妻が亡くなったら息子が全財産を相続すればいいと思っている場合に家族信託が使えます。
委託者は父、受益者も父、受託は息子として、信託目的は自宅と賃貸物件の管理と家賃の回収とします。委託者である自分が死亡したら、受益権は妻が承継する、その後は息子が承継すると信託契約書に規定します。これが遺言代用信託を言われるものです。
当然、妻の介護についても規定します。息子が後妻の成年後見申立を行うように規定してもいいと思います。財産管理を息子がちゃんとしてくれるのか心配であれば、弁護士を受託者監督人に選任しておきます。
妻が後妻さんで、息子が前妻の子なので、自分が亡くなると相続で争いになったりすると困ります。妻は認知症なので守ってあげたい。でも妻に全部を相続させるとすると、息子と養子縁組しておらず、妻との間に子供もなく、妻の親族が相続することになりまし、息子が可愛そうです。一方、息子に全部相続させるとすると認知症の妻が行き場を失うことになる。
後妻である妻の生活確保と、前妻の子の息子にゆくゆくは財産の全部を相続させたいという二つの思いを実現することができます。このようなケースでは、遺言では実現できないので、家族信託を利用します。大変便利な制度といえます。このような形態の信託を後継ぎ遺贈型受益者連続信託といいます。