遺言書作成時のポイント
遺言書は、被相続人の最後の意思として、相続人に当てたお手紙です。厳格な形式主義がとられており、形式に従わないと無効となってしまします。遺言書の言葉は、単にどの財産をどなたに与えるのかというだけではなく、その方が全力で生きてこられた最後の集大成なのです。絶対に無効となってはなりません。また、その遺言者の意思ではない第三者の意思が反映されたものであってはなりません。
以上の様な意味から、以下の注意点があると考えています。
② 遺留分を侵害しないように注意する。
③ 不動産の共有や自社株の分散は避ける。
④ 相続税をできるだけ低くすることだけ考えるとかえって損をする場合がある。
⑤ 納税資金を確保する。
以下で詳細に説明します。
① の遺言書が無効となるケースとして典型的な例は、自筆証書遺言が形式的に間違っているケースです。また、公正証書遺言であっても、認知症等で無効となるケースもありますが、自筆証書遺言に比べて無効なるケースは少ないと言えます。多少の費用が掛かっても、弁護士等の専門家を通じて、公正証書遺言を作成することを強くお勧めいたします。
② の遺留分ですが、遺留分とは、遺言によっても侵害することができない相続分のことであり、兄弟姉妹以外の相続人にのみ認められています。すべての財産を長男に相続くさせるという遺言書が良く見受けられますが、後に他の相続人から遺留分減殺請求権が行使され、紛争となるケースが後を絶ちません。あらかじめ、遺留分を侵害しない財産を他の相続人にも相続させる旨の遺言書を作成しておけば、紛争は生じにくくなります。
ただし、厄介なのが不動産です。不動産は評価を経なければ価値は明らかとはならず、時価も変動するため、予め遺留分を侵害しない額を定めにくいのが実情です。しかし、ある程度の財産を相続させる旨の遺言書があれば、訴訟提起してまで足りない遺留分を請求しようとする遺留分権者も少なくなりますので、やはり遺言書を作成することが一定の遺留分減殺請求権行使を抑止する効果があるといえます。
③ の不動産や自社株の分散を避けるということですが、不動産や自社株は共有や分散がされると短期的には紛争は回避できますが、それは紛争を先延ばしにしたにすぎず、子の世代や孫の世代で共有状態や分散状態の解消に訴訟が必要となったり、譲渡に伴って多額の納税の負担を強いられることになりかねません。
④ 相続税を安くすることだけを考えると、配偶者の特別控除を使えるようにであるとか、小規模宅地の特例が使えるようにであるとか、税法上の減税制度を中心に据えて、遺言が作成されがちです。税理士が遺言書を作成するケースではそのような遺言書が散見されます。
しかし、それがゆくゆくは紛争の先延ばしに過ぎず、配偶者が亡くなった後に子供同士で争いとなるケースもあります。税金を安くすることよりも、各相続人がなるべく平等に後々に感情の対立が生じないように、遺言者の意思を尊重しつつ、遺言書を作成する必要があります。よくある紛争のケースでは、お父さんの時は我慢したので、今回はそれを取り戻したいという不満感情が発端となります。
⑤ 納税資金の確保については、不動産業者やそれと提携する税理士のアドバイスにより、将来的にキャッシュフローが悪い賃貸物件を建築したようなケースで、結局、現預金が不足して納税資金が確保できなくなる場合があります。納税資金が確保できなければ、結局、遺言書を作成してもその通りの物件の移譲が困難となる場合がありますので、しっかりとしたシュミレーションを行う必要があります。
そもそも、納税資金が確保できなければ、不動産を売却したり、相続人の自己資金を持ち出す必要性があります。それを避けて、できるだけ相続財産によって納税資金を確保することが最優先事項といえます。最優先事項は、相続税を安くすることではなく、納税資金を確保することであることを再認識する必要があります。