相続人の中に認知症の方がいる場合の相続

相続人の中に認知症の方がいる場合の相続

先日、母が亡くなりました。相続人は、父と私を含めた兄弟2名の合計3名です。しかし、父は重度のアルツハイマー型認知症と診断され、現在は施設に入っており、私たちのことも認識できていません。このような場合、父を除く相続人2名での遺産分割は可能でしょうか?
遺産分割協議を行うには、お父様に成年後見人を選任する必要があります。

 遺産分割協議を有効に行うためには、相続人の全員が意思能力という能力を有している必要があります。
意思能力とは、自らの行おうとしている法律行為等(契約など)についてその内容を十分に理解し判断できる能力のことをいいます(事理弁識能力ともいわれます)。この意思能力を欠いた人の行った法律行為は無効とされます。
今回のケースでは、重度のアルツハイマー型認知症と診断されており、お子さん方のことも認識できていないとのことですので、意思能力を欠くとして有効な遺産分割協議は行い得ません。
又、家庭裁判所における遺産分割調停や審判を行うとした場合でも、意思能力を欠く人に対しては有効な調停等を起こすこともできません。

そこで、現在の状況からですとお父様に成年後見人の選任を行い、成年後見人を代理人として遺産分割協議を成立させ、又は遺産分割調停等を有効に継続させることができます。
意思能力を欠く人(厳密には、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者(民法7条))の家族は本人の利益を守るために家庭裁判所に対して成年後見人の選任を申し立てることができます(同条)。成年後見人には、弁護士等の専門職が選ばれることもありますが、実際に介護等を行ってきた親族等が選ばれ、成年後見人の行動を監督する後見監督人として別の弁護士等が選ばれることもあります。
もっとも、相続人の一人が他の相続人の成年後見人となった場合、成年後見人である相続人と他の相続人は「同じ遺産を取り合う」間柄となってしまい、双方の利害が対立することもあり、このような場合に成年後見人に他の相続人の権利を代理行使させると、成年被後見人に不利な内容の遺産分割協議が成立する危険性があるため、代理権への制限が設けられます(民法826条、同法860条)。
 成年後見監督人がいれば、監督人に任せればよいのですが、いない場合には利益の相反がある法律行為については、別途特別代理人の選任を行い、特別代理人に代理権を委ねることになります。
 
少しケースから離れますが、仮に生前に被相続人が死亡時に存在する全相続財産に関する遺言を作成しておけば、あえて、遺産分割協議を行う必要はありません。遺言の執行を行って遺言書通りの分配等を行うだけであれば、話し合いを行うわけではないので、全部の相続人に意思能力がある必要はありません。
 ただし、後の紛争を予防するために全ての相続人の遺留分を守らなければなりません。意思能力のない人の遺留分をあえて侵害するような遺言書を作成すれば、結局トラブルとなります。

 今回のケースでは、お父様に成年後見人の選任を申立て、成年後見人等(後見監督人や特別代理人)と相続人間で遺産分割協議を行えば、有効な遺産分割協議になると考えます。

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