遺産分割には期限はありますか?期限を過ぎたらどうなりますか?
- 7年前に私の父が病気で亡くなり、兄と私(妹)の2人が父の法定相続人となります。
私は父の生前、父の傍で5年間看護に携わり、父の生活を支えてきました。一方、兄は結婚を機に実家を離れ、父から与えられた新築資金5000万円で家を建てて暮らしていたため、父の看病はしていません。
父の遺産は、不動産を含めて約1億円です。私の介護について寄与分と兄の受けた生前贈与の特別受益を考慮した平等な相続をしたいと話しましたが、兄はそれに納得できないようです。このような経緯もあり、遺産分割をしないまま現在に至ってしまいました。
父の相続関係を清算しておきたいと考えていますが、父の死から長期間経過した今からでも寄与分や特別受益を考慮した遺産分割を実現できるのでしょうか? - 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
- 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
- 本来、お兄さんが受けた5000万円の生前贈与は特別受益として遺産分割の基礎財産に組み入れて平等に分割がなされるべきです。また、ご相談者が長年お父さんを介護されてきた功績は寄与分として評価され、ご相談者の相続分はその功績に応じて多く評価されるべきです。
遺産は1億円ですので、生前贈与の5000万円を加えると1億5000万円となります。寄与分が1000万円とすると、まず、ご相談者が寄与分として1000万円を受け取り、残った1億4000万円は法定相続分の2分の1の7000万円ずつ受け取る権利があるので、ご相談者は合計8000万円を受け取れるはずです。お兄さんは、既に5000万円をもらっているので、残った2000万円を受け取るということになります。
遺産分割それ自体には期限がなく、お父さんの死亡から何年経っていても相続人間で遺産分割をすることは可能です。
しかし、令和5年4月1日に施行された民法904条の3により、相続開始から10年が経過すると、原則として、遺産分割において、特別受益や寄与分の主張ができなくなるという法改正がされました。したがって、今後、被相続人の死亡から10年を経過した後にする遺産分割では、原則として、具体的相続分を考慮せず、法定相続分又は指定相続分によって分割されることとなります。
この制度は、施行日(令和5年4月1日)より前に開始した相続にも適用されるため気を付けなければなりません。ただし、施行日から少なくとも5年間は猶予期間が設けられます。分類すると、以下の時点を基準に具体的相続分による分割の利益を失うこととなります。①施行日の時点で、相続開始から10年が経過しているケース
…施行日から5年が経過した時点
②相続開始から10年を経過する日が、施行日から5年経過する日よりも前に来るケース
…施行日から5年が経過した時点
③相続開始から10年を経過する日が、施行日から5年経過する日よりも後に来るケース
…相続開始時から10年経過した時点
今回のケースでは、7年前に相続が開始していて、上記②のパターンにあたるため、令和5年4月1日から5年が経過するまでの間に、寄与分や特別受益があると主張する必要があるということになります。
今後、相続人間で争いがあり、遺産分割がされないまま長期間放置されるような場合には、早期に権利主張をする必要があります。争いが長期化するおそれのある場合にはなるべく早く、家庭裁判所の遺産分割調停を用いることを検討すべきでしょう。期限が経過すると、お兄さんは5000万円のもらい得、ご相談者の長年の介護についても遺産分割では評価されなくなり、極めて不平等な結果となってしまいますので注意が必要です。
期限経過後に遺産分割を行っても、お兄さんは残った遺産のうち5000万円を受け取り、ご相談者も5000万円を受け取ることになります。ご相談者の取り分は3000万円も少なくなってしまいます。
なるべく早めに専門家にご相談されることをお勧めいたします。今回の法改正は、このような極めて不平等な結果を招くこととなります。個人的には、裁判所での事務処理を優先した結果、相続人の権利を侵害する極めて不当な法改正であると考えています。
以上
参考:民法第904条の3
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前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。