養子縁組が相続税対策になるのはなぜですか?節税目的でも養子縁組は有効ですか?
- 私は2人兄弟の長男で、息子が1人います。私の母はすでに死亡しています。
父は多額の資産を有しており、相続の際には、それに応じて高額の相続税がかかることが見込まれます。このことを知人に相談したところ、父と私の息子の間で養子縁組をして、父の相続人を増やせば相続税を減らすことができると聞きました。
① 父と私の息子が養子縁組をして相続税が減るのはなぜですか?
② また、このような節税目的の養子縁組は有効なのですか?
③ 父は、長男もしくは長男家族に全ての遺産を渡したいと言っており、遺言も書くと言っていますが、遺言作成の際に気を付けることはありますか?
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1. ①養子縁組により相続税が減少する理由
(1) 相続税には基礎控除額というものがあり、相続税は、遺産総額から基礎控除額を差し引いた課税遺産総額に課されます。
そのため、基礎控除額が大きくなれば、課税遺産総額は減少し、相続税額も減少します。
この基礎控除額は、「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」という計算式により算出されるため(相続税法15条1項)、法定相続人が一人増えるごとに、基礎控除額は600万円増加することになります。(2) 養子縁組をすると、養親と養子の間では法律上の親子関係が生じ(民法727条)、養子は養親の子として相続人となります(民法887条1項)。
つまり、養子縁組をすることによって法定相続人が1人増えることとなり、1人分の基礎控除額が増加します。(3) 養子縁組が相続税の節税になるというのは、上記のとおり、法定相続人が増えることによる基礎控除額の増加を指しています。
2. ②相続税対策としての養子縁組は有効か
(1) 養子縁組が成立するためには、養親と養子の間に「真に養親子関係の設定を欲する効果意思」(「縁組意思」と言います。)があることを要し(最高裁昭和23年12月23日判決)、この意思がなければ縁組は無効とされます(民法802条1号)。
そのため、相続税の基礎控除額を増加させることを主な目的とした養子縁組には、縁組意思がなく、縁組が無効なのではないかという問題があります。(2) しかし、この問題について、最高裁平成29年1月31日判決は、㋐養子縁組による相続税の節税効果は、基礎控除額を相続人の数に応じて算出する相続税法の規定によって発生するものであること、㋑相続税の節税の動機と縁組意思とは併存し得るものであることから、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに縁組意思がないとすることはできないとしました。
したがって、相続税を節税する目的の養子縁組であっても、縁組意思は否定されず、養子縁組は有効に成立します。3. 相続税計算上の注意点
(1) なお、養子縁組による相続税対策を行う場合に、基礎控除額の計算において法定相続人の数に含めることができる養子の数には、以下の制限があります(相続税法15条2項)。
ⓐ被相続人に実の子供がいる場合…含めることができる養子は1人まで
ⓑ被相続人に実の子供がいない場合…含めることができる養子は2人まで
よって、相続税の計算上は上限があるため、たくさん養子縁組をすればそれだけ基礎控除額が増えるというわけではありません。
一方、民法上は、養子縁組の数に制限はありませんので、相談者様の複数の子供を養子縁組することはできますが、次男様の相続割合が減少することから、紛争となる危険性が高まります。(2) また、本件のように、相談者の父から見て孫にあたる者を養子にする場合、孫の相続税が20%加算されることにも注意が必要です(相続税法18条2項)。
以上でご説明したとおり、相続税対策の養子縁組は有効であり、養子縁組によって相続税額を減らすことができます。4. ③誰か1人に遺産を多く渡す内容の遺言を作成する場合の注意点
相談者様にすべてを相続させるという遺言書を作成することは可能ですが、弊所で、そのような遺言作成の依頼を受けた場合、お父様がいくら長男様へ全額相続させたいという意思であっても、次男様には遺留分侵害額請求権があり、お父様が亡くなったあと長男様と次男様で紛争になる可能性があることを説明し、遺留分相当額の遺産を次男様に相続させ、残りを長男様に相続させる内容の遺言を作成することを提案します。
ただし、遺留分侵害の有無を判断する場合は相続発生時の時価評価となるので、特に、不動産が多いケースの場合は、時価評価を推計して遺留分相当額がいくらになるのか、計算する必要があります。(相続税申告のための評価(相続税基本通達による評価)とは異なります。)弊所によくご相談いただくのは、遺言者が会社経営者で、会社の顧問税理士の先生に遺言の作成を依頼されていたケースです。遺言者の意思や、会社を継ぐお子様の利益が最大化するような遺言が作成されていることが多く、他の相続人の遺留分が考慮されていないため、相続発生後、家族関係が悪くなり、紛争になってしまったというご相談です。
誰か1人が遺産を多く取得する内容の遺言を作成する場合、遺言者の意思から離れ、遺産を多く取得する相続人の意思が介在していると他の相続人が感じることで、相続人間で紛争に発展することが多いです。そのため、他の相続人の遺留分に配慮し、付言事項でも他の相続人に配慮を示し、できるだけ紛争を未然に防止するよう心掛けて遺言を作成していただきたいです。以上