負債の相続(2) 当然分割の例外1 遺産分割前に一部の相続人が負債を全額弁済した場合
- 借金は、相続により当然に分割され遺産分割の対象とはならないと聞きましたが、遺産分割前に兄が借金を全額自腹で返済しました。兄は、返済金について遺産分割協議の中で清算したいと言っています。応じる必要はありますか?
- 債務の額や返済額が明確でないなどの特段の事情がなければ、遺産分割の中で話し合うべきと考えます。
そもそも、被相続人の金銭債務その他可分債務は、法律上当然分割され、各相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解するべきであるというのが、最高裁判例の考え方です(最二小判昭和34年6月19日(民集13巻6号757頁)。
よって、長男さんが、先に自腹で支払ったとしても、自分の相続分ではない借金を勝手に支払ったことになります。
お兄さんは、3名が分割取得した借金を支払ったことにより、他の相続人2名に対し求償権請求権を持つことになります。遺産分割協議では、お兄さんの求償請求権は、原則として協議の対象とはならないとも考えられます。
もっとも、例外的に以下のような裁判例もあります。
「相続人の一部の者が遺産分割前に被相続人の債務を弁済したような場合には、その債務並に弁済がいずれも正当と認められる限り、同様に遺産分割手続中で清算するのが相当である。」(大阪高裁昭和46.9.2決定、判タ 283号346頁他)とした裁判例があります。
また、同種の例としては、被相続人の生前の入院費等に関して、「相続人の一人が遺産分割前に相続債務を弁済した場合には、その債務は元来共同相続人が相続分に応じて負担すべきものであり、弁済した相続人は他の共同相続人に対し求償権を有すること明らかであるから、該債務に関する清算は、共同相続人間の債権債務関係であるにせよ、第三者に影響を及ぼすこともないのであるから、民法第906条の趣旨にてらし、便宜、遺産分割審判の対象として差し支えない」(大阪家裁昭和47.8.14審判、家月 25巻7号55頁)と判示した裁判例もみられます。
もっとも、この審判では続けて「該債務が特定できないなど特段の事情がある場合には、これを分割の対象から除外し、通常の相続債務に関する共同相続人間の清算の問題として別途の解決に委ねるのが相当である」とも判示しました。債権の額等が明確でなく、その点について争いがある場合には、裁判で決着をつけることになります。
相続開始前から存在する債務を一部の相続人が返済した場合には、厳密に相続開始前の債務を遺産分割の対象とした例ではありませんが、その清算についても遺産分割手続で行うことが公平だから清算すべきとした例であるといえます。
以上です。ご参考にしてください。