持戻し免除と遺留分
- 私が死亡したときに、相続させたくない者がいます。そこで、相続させたい者に生前贈与をし、それにつき特別受益の持戻し免除の意思表示を遺言でしておけば、相続させたくない者は遺留分減殺請求できなくなるのではありませんか?
- いいえ、遺留分の計算においては、特別受益の持戻し免除の意思表示を遺言でしたとしても、特別受益に当たる贈与に係る財産の価格は、遺留分算定の基礎となる財産額へ算入されます。
解説
- 特別受益の持戻しと持戻し免除の意思表示
- 持戻し免除の意思表示と遺留分
共同相続人中に、生前贈与を受けた者がいる場合、かかる特別受益を相続分算定の基礎に算入する計算上の扱いを特別受益の持戻しといいます。もっとも、被相続人は、意思表示によって特別受益者の受益分の持戻しを免除することができます(民法903条3項)。被相続人が、かかる持戻し免除の意思表示をしていた場合、特別受益を相続分算定の基礎に算入しないこととなります。
上述したように、生前贈与がなされ、その特別受益につき持戻し免除の意思表示がなされた場合、その特別受益は相続分算定の基礎に算入されませんが、このような場合であっても、当該贈与の価格は遺留分算定の基礎財産には算入されることとなります。
この点につき、最一小決平成24年1月26日(判時2148号61頁)は、「遺留分権利者の遺留分の額は、被相続人が相続開始の時に有していた財産の価格にその贈与した財産の価格を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに遺留分割合を乗ずるなどして算定すべきところ(民法1028条ないし1030条、1044条)、上記遺留分制度の趣旨等に鑑みれば、被相続人が、特別受益に当たる贈与につき、当該贈与に係る財産の価格を相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(以下「持戻し免除の意思表示」という。)をしていた場合であっても、上記価格は遺留分算定の基礎となる財産額に算入されるものと解される。」としています。
これは、遺留分制度が被相続人の財産処分の自由を制限し,相続人に被相続人の財産の一定割合の取得を保障することをその趣旨としているところ、被相続人の持戻し免除の意思表示により、生前贈与等の特別受益が遺留分算定の基礎財産に含まれないこととなれば、相続人に被相続人の財産の一定割合の取得を保障しようとした法の趣旨に反する結果となってしまうからである。
よって、特別受益に当たる贈与に係る財産の価格は、遺留分算定の基礎となる財産額へ算入されます。
以上