法人の『節税保険』は危険です。中小企業の社長さんが亡くなっても、会社の負債を家族が相続しないように、ちゃんとした保険に加入してください!!
(2019年2月13日付の国税庁の「節税保険」に対する税務取扱いの見直し発表を踏まえて
日経新聞2019/2/14付朝刊『生保各社、「節税保険」の販売停止 課税見直し方針受け』)
原稿が長いので、目次をクリックして知りたいところを見てください。
一. 節税保険とはなんぞや?その前に、前提知識を説明します。≫≫
二. 節税保険とはなんぞや?≫≫
三. 既にたくさんの節税保険に入っているので、節税もできたし、安心だと思っている経営者の方へ、ご注意があります。≫≫
一. 節税保険とはなんぞや?その前に、前提知識を説明します。
まず、前提として、保険の種類は3つあり、定期保険と養老保険と終身保険があります。
法人契約の定期保険とは、一定期間内における被保険者の死亡を保険事故とする生命保険のことですが、支払った保険料は、期間の経過に応じて全額損金算入となります(法人税法基本通達9-3-5)。これを掛け捨て保険といいます。
次に養老保険とは、被保険者の死亡又は生存(満期日に生きていれば生存保険金をもらえる。)を保険事故とする生命保険のことですが、支払った保険料は、保険積立金として全額資産として計上します(同通達9-3-4)。
最後に、終身保険とは、通達の規定はありませんが、満期日等はなく一生涯において被保険者の死亡を保険事故とする生命保険のことであり、支払った保険料は、保険積立金として全額資産として計上します。
養老保険と終身保険の二つをここでは、貯蓄型保険といいます。
要するに、定期保険(掛け捨て保険)は掛け捨てで保険料が安く全額経費となり、養老保険と終身保険(貯蓄型保険)は、保険料が高く、貯蓄性があり、全額資産計上となります。
養老保険と終身保険の違いは、満期日があるかどうかで、養老保険は満期日に保険金を被保険者(または受取人)が全額受け取れますが、終身保険は、保障が一生涯続くので生存中に保険を解約することで解約返戻金を受け取るという方法でないと被保険者にはお金が戻ってこないということになります。
保険会社からすれば、定期保険は掛け捨てで保険料が安いので、保険料をたくさん受け取れる貯蓄型保険の方をお勧めしたいということになります。
加入する中小企業からすれば、まずは、保険料が安い定期保険(=掛け捨て保険)で、銀行からの借入等の支払い義務がある債務について全額保障を確保し、社長の死亡事故などのリスクに備える方が良いということになります。その上で、役員の退職金や相続の納税資金・社員の退職金確保のためには、掛け捨て保険とは別に貯蓄型保険に入るということになります。
課税庁からすれば、掛け捨て保険は、積立金が貯まらないので、当然に損金処理となり、貯蓄型保険は積立金が貯金と同じように貯まるので、当然に資産計上するということになります。
以上が原則的な話です。
二. 節税保険とはなんぞや?
いわゆる節税目的で、掛け捨て保険の保険料を損金処理しつつ、同時に、保険料を高く設定して、解約返戻金が保険会社に貯まっていくという定期保険と貯蓄型保険との『おかま保険』(表現が不適切かもしれませんがわかりやすいのであえて使いますね。)が考え出されました。これが長期平準定期保険などの節税保険です。
中小企業の経営者にとって、おかま保険は、保険会社から「中小企業が期末近くになって、利益を出して税金を支払わなければならない見込みとなった場合に、高額のおかま保険に加入して保険料を半額又は全額損金処理(節税)できるし、また、解約返戻金がたまった後に、赤字の期や役員の退職時期に解約すれば、お金が戻ってくる(利益の繰り延べ)けど、税負担が減る」と説明されるので、定期保険の掛け捨てよりもお得で非常にメリットがあると感じることになります。
保険会社にとって、おかま保険は、利ザヤが少なく財務体質が悪くなるリスクがあるという問題がありますが、たくさんの保険料をお預かりでき、それを元に運用できるので、真面目に安い定期保険を売るよりも、かなりうま味があります。また、節税というニンジンを中小企業の経営者の前にぶら下げると多くの経営者はほぼ食いつくので、非常に売りやすい商品となります。
課税庁は、このおかま保険について、実質貯蓄性の高い保険であるにもかかわらず、法人税法個別通達(平成20年2月28日課法2-3、課審5-18)なるものを出し、いわゆる105ルールというものを作って中小企業が保険料の50%を損金処理することを認めていました。
さらに、生活障害保障型定期保険(死亡又は生活障害を保険事故とします。)という、通達に根拠がなく、105ルールを充たさない定期保険の全額損金処理を認めていました。
これは、定期保険であるにもかかわらず、全額損金処理できるという、ほぼ定期保険の原型をとどめていないという意味で、特に、ニューハーフ保険と呼んでいます(笑)。
そもそも、通達というものは、役所内部の指揮命令のための制度で、国会で審議される法律とは全く異なります。国税庁は、役所内で勝手に判断して、おかま保険の保険料を半額損金処理することを認め、、ニューハーフ保険については、通達すらなく全額損金処理することを認め、本来、税金として徴収すべき貯蓄性のある部分から、税金を徴収する義務を怠っていました。
また、利益の繰り延べを認め、これによって、企業が利益のあがる時期を操作することで課税を免れるという、租税の公平な負担という原則に真っ向から反する取り扱いを単なる通達レベル又は通達なしで認めていました。これは明らかに租税法律主義に反します。
結局、税収が減るということは、おかま保険等の節税保険に加入した企業と保険会社だけを助けて、国の政策実現の負担を我々一般国民に押し付けていたということになります。これは、国税庁、財務省、国会、自民党の怠慢という他ありません。おそらく、保険会社の族議員がおり、それに役所が従ったんでしょうね。
しかも、2019年10月には消費税を増税し、国民の負担を増やそうとしています。消費税増税自体はやむを得ないかもしれませんが、その一方で、単なる通達という役所内の指揮命令のみで、保険会社を利している政策自体が間違っていると思います。
今回の通達を変更するという方針の発表は、租税負担の公平という観点からなされたものと思われますので、私個人としては、本来あるべき姿に戻っただけと思います。
そして、消費税は必ず増税するという政府の姿勢の表れとして、野党の揚げ足取りを回避するためか、保険会社のみを利していたおかま保険に対し、原則通り課税するとしたものと考えています。
三. 既にたくさんの節税保険に入っているので、節税もできたし、安心だと思っている経営者の方へ、ご注意があります。
おかま保険は、一見、中小企業と保険会社にとって、メリットのみがあり、何の問題もないんじゃないかとも思えますが、実は、大変なリスクを負うこととなった中小企業もたくさんあります。
例えば、負債等で3億円の保障が必要な中小企業があったとします。期末の純利益も数百万円で大したことなく、月々に支払える保険料が10万円であったとします。
3億円が保障額の定期保険の月々の保険料が10万円であった場合、年間120万円の掛け捨ての定期保険に入る必要があります。
しかし、120万円の掛け捨て保険に入った方がいいと説明しても経営者はなかなか首を縦に振りません。もったいないと思うからです。月々10万円払って返ってこないのは損だと考えます。そして、まだ元気だから、自分は死なないので、亡くなった後のことはまだ考えなくてもいいとも思っています。
そこで、とにかく保険契約が欲しいファイナンシャルプランナーは、保障額が本来必要な額に満たない、例えば保障額が1億円で、年間120万円の保険料のおかま保険を提案します。
経営者は、そもそも決算書もよく読めないので、保障額が満たないことも気にせずに、得した気分になってあっさりとおかま保険に入ります。
しかし、経営者が不慮の事故で亡くなった場合にとんでもないことになります。保障額の足りないおかま保険では、会社の負債を保険でカバーできず、残されたご家族が、多額の負債を相続することとなったり、相続放棄を余儀なくされて、せっかく団体信用保険でローンがなくなった自宅を失ったりすることになります。
保険の第一の目的は、残されたご家族の生活を守ることにあります。しかし、節税目的のおかま保険により、一番大切な残された家族の生活が守られていない状態の中小企業が多く存在します。私の予想では、80%のぐらいの中小企業が保障額が足りない危険な又は無駄な保険に入っていると推測しています。
人間はいつ死ぬかを自分で決めることはできません。人生にはいつ何があるかわかりません。弁護士という職業柄、突然、事故などで亡くなる方の話を日常的に聞きます。
本来、保険を勧めるファイナンシャルプランナーは、そのような突然の死亡・事故の際の保障の大切さや残された家族の生活維持にかかるお金の重要さを一番にお客さんに伝えないといけないはずです。
しかし、現実には、保険を販売する者には、お客さんの家族の将来の生活や未来を守ろうという意識が皆無な人が非常に多いです。これは残念でなりません。
中小企業の社長さんは、是非、すでに加入している保険の保障額が、本来、会社が必要な保障額を充たしているのかを再確認し、保障額に満たない場合は、無駄なおかま保険を即刻解約し、保障額を充たしつつ、かつ、保険料の安い定期保険に入り直してください。
当事務所は、我々の目的や理念に照らして、くだらない節税の相談はお断りしていたことから生命保険の代理店はやっていませんが、中小企業が入るべき生命保険の指導はやっており、誠実で信頼できるファイナンシャルプランナーを紹介できますので、気軽にご相談ください。
以上