親の事業に従事してきたことがどのように相続に影響するか
- 私は、高校卒業してからずっと被相続人である父の家業を手伝っていましたが、家族経営であったこともあり、安い月給でした。
父が亡くなり、相続が開始したのですが、あまり家に寄りつかなかった姉が、姉弟なのだから平等だと言って、財産の半分を渡せと主張しています。以前から給料も少なかったのに、遺産の半分を姉に渡さなければならないのでしょうか。 - 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるとき(民法904条の2)は寄与分として、相続財産から寄与分を控除して相続財産とみなされます。
今回のケースで寄与分として一定額が認められた場合、相続財産から寄与分を控除して法定の相続分の計算がされます。もっとも、寄与分として認められるには、いくつかの条件があります。無償性、専従性です。
- 無償性
- 継続性・専従性
相続人がどれほど被相続人の財産の増加に寄与したとしても、当該相続人が、被相続人から給与等を受け取っていれば、対価を伴った労働を行っただけであり、相続に影響を与えるほどの特別の寄与があったと認められません。
しかし、月に1万円など少しでも報酬があったからといって寄与分が認められないわけではなく、仮に被相続人が相続人ではない第三者を雇用等した場合に支払ったと考えられる対価に比べ現に受け取った対価に相当の差額が認められる場合には寄与分があると認められる余地があります。週に1回、繁忙期のみピンチヒッター的に手伝った、日中はサラリーマン等の正業があり週末のみ手伝ったという程度では、被相続人にとって通常の負担を超えた特別の寄与とまで評価されないことが多いです。
したがって、家業に従事したとして寄与分が認められるには相当の長期間自分自身の仕事として従事していた必要があり、容易には認められないケースが多いです。寄与分が認定されるのは、今回のケースのような家業に従事してきたというものの他に、療養看護等による被相続人の財産の維持又は増加というケースもありますが、家業に従事したとして、裁判所に寄与分が認めさせることはとても難しいといえます。
被相続人の配偶者や子などの身分関係がある場合では親族間の扶助義務等から、財産の維持又は増加への特別の寄与があったと認められにくく、相続人にも生活があるため完全に無報酬で従事したというケースもほとんど考えられないと思います。安価での労働に対する通常の労働対価との差額分を寄与分として認めるように協議において交渉し、相手方との示談交渉において合意を取ることが現実的であると言えます。
親族間での遺産分割協議において、これまでの寄与分が認められない場合は、家庭裁判所に対し、寄与分を定める調停又は審判を申し立てる必要があります。
当事者が寄与分の審判申し立てを行っている間は、寄与分が定まらないことにより、具体的な相続分が算定できないこととなります。
寄与分の審判事件の解決を待って、具体的な相続分の確定を行うこととなりますので、遺産分割の調停や審判が長期間に及ぶケースも稀ではありません。以上