生命保険以外に財産がない場合、受取人でない相続人はどうなる?

Q:夫が癌で余命1ヶ月と診断されました。結婚したのは10年前で、お互い再婚同士です。夫は前妻と15年前に離婚しており、前妻との間には、現在40歳と42歳の子供が二人おります。私にも前夫との間に実子Aが一人おり、現在25歳です。夫と結婚した当時、私の実子Aは15歳でしたので、夫と養子縁組しました。

 夫は、前妻と離婚した際に不動産などの財産を処分しており、生命保険以外にさしたる資産はありません。夫の生命保険の保険金額は5700万円です。

 ひと月前まで、生命保険の受取人は妻である私が100%でしたが、夫は私に内緒で受取人を私50%、前妻の長男25%、前妻の長女25%に書き換えました。私の実子Aは、夫の養子となっているにもかかわらず、何ももらえません。

 私の実子Aは、夫が死んだ後で、特別受益や、遺留分などの権利を行使できないのでしょうか?

A本件の場合は、他の相続人が受け取った保険金は特別受益にあたり、Aさんは、遺留分減殺請求権を行使できると思います。

一.原則として、生命保険金は、遺産ではありません。

 理由は、死亡保険金請求権は、指定された保険金受取人が自己の固有の権利として取得するのであって、保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく、これらの者の相続財産を構成するものではないというべきでだからです(最高裁昭和36年(オ)第1028号同40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻1号1頁参照)。

 よって、死亡時受取人が指定されている以上、その受取人のみが固有の権利として保険金を受け取ることができます。

 つまり、原則としては、Aさんは何も受け取れません。

 では、生命保険金以外に財産がない場合は、生命保険金は特別受益として持ち戻しの対象とはならないのでしょうか?(問題1)≫≫

 また、生命保険が持ち戻しの対象とされた場合は、Aさんは遺留分減殺請求権を行使できないのでしょうか?(問題2)≫≫

二.まず、問題1の特別受益について検討します。

 参考条文
 (特別受益)
 民法第903条 
 第1項:共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻、養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定によって算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除し、その残額を以てその者の相続分とする。
 第2項:遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
 第3項:被相続人が前二項の規定と異なつた意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に反しない範囲内で、その効力を有する。

 903条1項の規定は、特別受益の規定です。遺贈や生前贈与により受領した財産は、被相続人の死亡時に、遺産に持ち戻して相続財産とみなします。これをみなし相続財産といいます。そして、みなし相続財産を加えた相続財産全体を法定相続分で分け、既に取得した遺贈や贈与の評価額を差し引いて、その残額のみが相続分となるとしています。

 平成16年10月29日最高裁決定(民集 58巻7号1979頁)は以下の通り、例外的な状況では、生命保険も特別受益として持ち戻しの対象としています。

 『被相続人を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の一人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらない。しかし、①保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、②保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となる。

 また、東京高裁平成17年10月27日決定(家月 58巻5号94頁)は、相続開始時の相続財産の総額が1億0134万円(a)、生命保険金の総額が1億0129万円(b)の場合(b/a=99.9% )の場合に持ち戻しの対象となるとしています。

 では、本件の場合は、特段の事情があるといえるでしょうか?

 ご主人が亡くなられた場合は、5700万円(b) の保険金しかなく、他に遺産はありません。仮に預金等が残っていてその額が10万円(a)であるとしても、相続財産の総額に対する比率は約570%となります。

 では、次は、被相続人と受取人との関係と生活実態を検討します。

 保険金受取の割合は、相談者である妻が1/2、夫の前妻との子らがそれぞれ1/4ずつです。です。Aさんの名前は記載されていません。

 同じ相続人なのに、一部の相続人だけが全くもらえません。遺言による相続であれば、全くもらえない人があれば、その人は遺留分減殺請求権を行使できますので、今回の場合も何とか救済してあげたいと思いました。

 まず、妻は10年間生活を共にしており介護等も行っています。保険金の2分の1(2850万円)をもらうのは当然と思えます。むしろ少ないかもしれません。

 前妻の子二人は、夫の実子であり、それぞれが成人するまで被相続人と約20年間同居していたとしても、被相続人と前妻が離婚した後の15年間は同居していませんし、被相続人の介護等も行っていません。

 Aさんは、妻の連れ子ですが、被相続人の養子です。法律上の親子としての関係が成立しており、相続関係においては、養子も実子も本来、権利は同じはずです。また、被相続人との同居期間は、養子縁組した15歳から20歳までとして約5年間で、二人の実子と比べて短いといっても、それは年齢と関係しているからであり、親子関係に何らの問題もありません。

 Aさんと被相続人の実子2名は、共に親子関係にあるという点では同一であり、また、被相続人の介護については妻が行っており(妻が介護を行った期間は夫が癌と診断されて死亡するまでの約1年間なので、介護の期間はそれほど重要であるとは思えません。)、実子か養子かで著しい差を設けることは極めて不平等という他ありません。

 Aさんと被相続人との関係及び他の相続人との均衡を考えると、保険金を受領することができる妻や二人の実子との間に生じる不公平が、到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情があるといえると思います(これには様々な反対意見があると思います。)。

 よって、Aさんは、他の相続人が受け取る保険金が特別受益であり、持ち戻しの対象となると主張できると思います。

三.では、生命保険が持ち戻しの対象とされた場合は、遺留分減殺請求が認められるのかを検討します。

 結論としては認められると思います。理由は以下のとおりです。

 特別受益としての持ち戻しが認められても、原則としては、保険金は、遺産ではありませんので、当然に遺産分割できるということにはなりません(民法903条2項参照)。既に、受取人が他の相続人に決まっているので、Aさんの遺留分に対する侵害と考えて、遺留分減殺請求権行使の余地を検討する外はないと考えます。 

 遺留分の参考条文です。

 (遺留分の算定)
 民法第1029条
 遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。
 民法1031条
 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するに必要な限度で、遺贈及び前条に掲げる贈与の減殺を請求することができる。

 条文を見ると、遺留分算定の基礎財産として、贈与した財産を加算するとあります。生命保険の受取人の指定及びその変更は贈与ではないので、これに含まれません。

 そして、最高裁平成14年11月5日判決(民集 56巻8号2069頁)は、原則として、生命保険は遺留分算定の基礎財産には含まれないとしています。

 『自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は、民法1031条に規定する遺贈又は贈与に当たるものではなく、これに準ずるものということもできないと解するのが相当である。けだし、死亡保険金請求権は、指定された保険金受取人が自己の固有の権利として取得するのであって、保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく、これらの者の相続財産を構成するものではないというべきであり(最高裁昭和36年(オ)第1028号同40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻1号1頁参照)、また、死亡保険金請求権は、被保険者の死亡時に初めて発生するものであり、保険契約者の払い込んだ保険料と等価の関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであって、死亡保険金請求権が実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることもできないからである。』

 しかし、最高裁平成10年3月24日判決(民集 52巻2号433頁)は、以下の通り、特別受益となる贈与を遺留分減殺の対象となるとしています。

 民法903条1項(特別受益)の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である。けだし、民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、すべて民法1044条、903条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に含まれるところ、右贈与のうち民法1030条の定める要件を満たさないものが遺留分減殺の対象とならないとすると、遺留分を侵害された相続人が存在するにもかかわらず、減殺の対象となるべき遺贈、贈与がないために右の者が遺留分相当額を確保できないことが起こり得るが、このことは遺留分制度の趣旨を没却するものというべきであるからである。』としています。

 更に、前述の平成16年10月29日最高裁決定(民集 58巻7号1979頁)によれば、生命保険契約でも特別受益となりえます。

 すなわち、①保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、②保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となる。としていますので、①及び②の要件を充たす場合には、903条を類推適用して、生命保険の受取人の指定又はその変更が、贈与と同視されることになります。

 以上から、上記平成16年10月29日最高裁決定の①及び②の要件を満たせば、民法903条の類推適用により特別受益として認められ、最高裁平成10年3月24日判決によって、遺留分減殺の対象となります。

 もっとも、本件のAさんの遺留分は、1/12(法定相続分1/6×1/2)ですので、保険金額が5700万円の場合は、遺留分額は475万円です。その内、237万5000円は実母の取り分ですので、118万7500円ずつを異母兄弟2名に対し訴訟提起するということになります。

以上です。

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