遺産の大半を相続人の内の一人に相続させたい場合
- 長年、家業や私の介護を行ってくれた息子に、土地や不動産を含め現預金等のほとんどを譲りたいと思い、遺言書を作成しようと思っています。娘は独立して自分の家があるので、あまり私の相続には口は出してこないと思うのですが、遺言書を作成する際に気をつけるべきポイントなどはありますか。
- 娘さんから遺留分減殺請求を行われる可能性があるため、遺言書の内容の確認の他、遺留分減殺請求をされた場合に娘さんに支払うことになる遺留分相当額の金融資産等の確保を行いましょう。
遺言を作成したとしても相続人から「遺留分減殺請求」(民法1031条)が行われるリスクがあります。
遺留分とは、被相続人の意思によっても奪うことのできない相続分であって、兄弟姉妹以外の相続人(配偶者や子及びその代襲相続人、子がいない場合の被相続人の親など)に認められています(民法1028条)。
本件の場合、娘さんの遺留分は相続財産の4分の1になりますので、遺産総額の4分の1に相当する預金等の確保が必要となります。
相続発生後の兄弟間の紛争防止のためには、予め娘さんにも遺留分に相当する遺産を相続させる旨遺言されることをお勧めいたします。長男にほとんどの財産を相続させ、娘さんの遺留分を少なくするために長男に生前贈与をすることを考える方も多くいらっしゃいますが、長男への生前贈与を行ったとしても、相続発生後の遺留分算定の際には長男へ贈与した財産も遺留分の算定の基礎に加算されます。
相続財産に、贈与した財産の価額を加え、被相続人の負っている債務を控除したものが遺留分算定の基礎となります(民法1029、1030条)。「贈与した財産の価額」は、相続人に対する贈与の他、相続人以外に対する贈与であっても、相続開始前1年間に行った贈与や当事者間で遺留分を侵害することを知って行った贈与の財産の価額が含まれます。
また、判例上、相続人への特別受益となるものは、1年以上前に行ったものであったとしても遺留分減殺請求権の基礎となる財産に含まれます。
先に兄に財産を贈与したケースの場合、贈与財産は「特別受益」(民法903条)として相続分の前渡しとして、遺産総額に加算されることになります。そして、遺言書などで「兄に対する不動産等の贈与は相続財産への持ち戻しを免除する。」旨を表示した場合(持ち戻し免除の意思表示と言います。)でも、遺留分減殺請求権の基礎となる財産に含まれます。
よって、生前贈与で積極財産の大半を贈与した場合には、贈与税はもちろんのこと、後の「遺留分減殺請求」のリスクにさらされるということになりますので、多額の生前贈与はお勧めいたしません。
遺留分を侵害された相続人は、自らの遺留分を確保するために必要な限度で生前贈与等の減殺を請求することができます。
生前に不動産が贈与され、遺留分を侵害する場合、遺留分減殺請求権が行使されれば、当該不動産を共有名義にするか、現金による価格賠償を行うほかありません。
本件の遺言書は、法律的には違法ではありませんが、娘さんの遺留分を侵害するような遺言書と言えますので、娘さんが遺留分減殺請求権を行使することを想定して、予め娘さんの遺留分額に相当する預貯金を残しておくか、又は、遺言書に娘さんへ相続させる遺留分相当額の金融資産等を予め記載しておくことが望ましいと言えます。
以上、参考にしてください。