自社株式承継にかかる相続税、贈与税の負担の軽減のための事業承継税制



1. 取り引相場のない同族会社の株式の評価方法

 評価の方法を簡単に説明すると、1株当たりの純資産額(会社の全資産から負債を控除したものを株式数で割る。)を算出し、これに類似業種比準価格方式の評価方法を加味して評価します。会社の規模によって、純資産額による評価と類似業種比準価格方式の加味の割合が異なります。
 先ほどの、自社株式を承継者の長男に贈与し、贈与時の時価が3億円であったとし、後に被相続人が死亡し、死亡時の時価が10億円、法定相続人が配偶者、後継者の長男、長女の3名、自社株以外の財産が1億円である場合の例でいうと、贈与時の自社株の時価が3億円であれば、贈与時点において、長男は、贈与税を支払う必要があります。計算すると1億6000万円程度になります。
 これはさすがに払えないと思います。そうすると、税金が払えないために、事業承継ができず、バタバタと多くの会社が閉鎖し、日本経済は破綻することになります。
 そこで、制定されたのが事業承継税制です。

2. 事業承継税制について(非上場株式等の贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例)

 贈与税の負担や相続税の負担を軽減することで、事業承継を円滑に進めるために、事業承継税制という制度が設けられました。
簡単に説明すると、同族会社の法人の代表者であった先代から、自社株の贈与を受けた場合に贈与税の全額の納税の猶予を受け、先代経営者の死亡当により猶予税額の納付が免除される制度です(株式総数の3分の2が上限)。また、相続により、被相続人から相続した株式については相続税の80%が猶予され、後継者の死亡等により猶予税額の納付が免除される制度です(株式総数の3分の2が上限)。 
 適用を受けるためには、都道府県知事の認定を受け、報告期間中(原則5年)は8割の雇用確保等の要件を充たす必要があり、期間経過後は対象株式を継続保有することなどが求められます。
 会社の要件として、上場会社でないこと、風俗営業でないことや、資産管理会社でないことなどの要件があります。
 先代経営者の要件としては、会社の代表権を有しており、議決権の50%を超える株式を有していたことなどの要件があります。
 後継者の要件としては、相続開始後5カ月以内に会社の代表権を有していること、議決権の50%を超える株式を有することなどが要件となります。また、相続開始の直前においてその会社の役員であったことが必要です。
また、平成29年の税制改正までは、贈与税の暦年課税のみ選択可能であったことから、納税猶予取り消し時に、相続税よりも高額の贈与税の負担を強いられるという問題がありましたが、平成29年税制改正により、相続時精算課税(原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し)を選択することが可能となりました。これにより、納税猶予取り消し時のリスクが緩和されることとなります。

3. 平成30年税制改正 事業承継税制の特例制度の創設

 平成30年1月1日から平成39年12月31日までの10年間の特例措置として従前の事業承継税制の要件緩和等の改正が行われました。これによって更に、事業承継がスムーズにいくことになります。改正の内容を以下の通りです。

  1. 相続税の80%猶予が全額猶予へ拡大されました。
  2. 贈与又は相続した株式について、会社の株式総数の3分の2を上限とするという制限をなくしすべての株式へ拡大 されました。
  3. 後継者は、総議決権の過半数の株式を取得することが要件でしたが、特例後継者という概念を創設し、特例後継者とは特例承継計画に記載された代表権を有する後継者であり、特定後継者は同族関係と合わせて総議決権の過半数を有する者として要件を緩和し、その同族関係者の内でもっとも議決権を多く有する者とされました。
  4. また、後継者は1名でしたが、総議決権数の10%以上を有する者であれば3名までを後継者とすることができるように拡大されました。
  5. また、特例認定承継会社という概念を設け、平成30年4月1日から平成35年3月31日までの間に特例承継計画を都道府県に提出することが要件に加えられました。特例承継計画とは認定経営革新等支援機関の指導又は助言を受けて作成されて計画であり、後継者や承継時までの経営見通し等が記載されたものをいいます。
  6. 特例後継者が代表者以外の者から贈与等により取得する株についても、特例承継期間(5年)内に贈与等の申告書の提出期限が到来するものは特例の対象とされました。
  7. 報告期間中(原則5年)は8割の雇用確保等の要件を充たす必要がありましたが、要件を充たせない場合でも、直ちに納税猶予が打ち切られず、要件を充たせない理由(経営状況の悪化又は正当な理由)を記載した報告書を都道府県知事に提出すれは、納税猶予が継続される余地が残されました。
  8. 会社の株式の譲渡や破産、合併時に猶予税額の内、一定額が免除されていましたが、今回の改正により、業績悪化により会社を処分することとなった場合における免除額が実質的に拡大されました。
  9. 相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対するものに限定されていますが、事業承継の場合には、後継者が推定相続人以外の者(その年初において20歳以上)でも、先代経営者が60歳以上の者である場合には相続時精算課税制度が適用できるようになりした。

4.

事業の承継は、団塊の世代の世代交代により、今後5年間が事業承継の大きな山場を迎えることになります。事業承継にかかる自社株の贈与又は相続税の負担がゼロになるという画期的な法律であり、今まで、先延ばしにしていた事業承継問題を考え直すいい機会ではないかと思います。


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