公正証書遺言が無効となるケース
1. 公正証書遺言とは、公証人が公正証書によって作成する遺言です。
公正証書遺言は、証人2人の立会いの下、公証人の面前で、遺言者が公証人に遺言の内容を口授(口で伝える)し、公証人が遺言者の意思を文書に書き留めて、遺言書を作成します。
公正証書遺言は、公証人が介在することから、遺言が無効となる可能性は非常に低いとされています。
しかし、公正証書遺言が無効とされる場合もあります。
2. 遺言能力がなく無効となるケース
一般に、公証人は、遺言者が、遺言の意味を理解しているのかを確かめながら遺言を作成します。そのため、遺言する時に遺言能力がなかったと判断されることは多くありません。
しかし、公正証書作成の際には、実際には、弁護士等の代理人があらかじめ作成した原案を公証人に提出し、公証人は遺言者の本人確認等を行って、予め作成した遺言書の原案を読み上げて、それを遺言者に読み聞かせるだけであり、そのため、遺言能力の有無について十分な確認がなされないままに公正証書遺言が作成さるケースもあります。また、公証人は、遺言能力の有無について、それを担保することはできません。
そのため、遺言能力がなかったと判断される場合もありえるのです。
3. 口授がなかったとして無効となるケース
口授とは、遺言者が、公証人に対し、遺言の内容を口で伝えることをいいます。前述の例で、遺言書の原案を公証人が遺言者に読み聞かせただけであれば、口授がなかったとして無効となるのでしょうか?
口授は、遺言者の意思が正確に公証人に伝えられ、それに基づいて公正証書遺言が作成されることを担保するための手続です。
そこで、遺言者の意思が正確に公証人に伝えられていること、遺言者の意思に基づいて公正証書遺言が作成されたといえる場合には、口授があったとして認定される傾向にあると考えられます。
最高裁昭和54年7月5日判決は、公証人が右筆記を項目ごとに区切って読み聞かせたのに対し、遺言者が、その都度そのとおりである旨声に出して述べ、金員を遺贈する者の名前や数字の部分についても声に出して述べるなどし、最後に、公証人が筆記を通読したのに対し大きくうなずいて承認した、というケースにおいて、本件公正証書遺言は無効とはいえないとした原審の判断は維持しました。
厳密な意味での口授はなくとも、口授されたのと同程度に意思確認が行われれば、口授の要件を緩和して有効とした例といえます。
最高裁54年7月5日の例では、項目ごとに読み聞かせて意思確認をしていますが、それを一切行わずに、単に全文を読み上げて、遺言者が肯定又は否定の挙動をしたに過ぎないようなケースでは、口授はなく無効と判断されることとなります(最高裁昭和51年 1月16日判決)。