預金以外の財産の使い込みや使い込み防止法など
1. 預金以外の財産の使い込みの例について
預金以外に使い込みが多いのは、収益不動産の収益です。賃料収入等が預金口座に振り込まれて管理されている場合は、預金の使い込みの問題となりますが、使い込みが行われているケースは現金で集金がされている場合です。
調査の方法としては、賃貸物件の賃貸契約書や税務の申告書を提出させて、収受したはずの家賃総額の使途の開示を請求します。
これについても長期間にわたり、一部の相続人が管理していたような場合は、使途不明の賃料収入総額を算出するのに相当の時間がかかります。
2. 預金等の使い込みと相続税申告漏れ
相続税においても預金の使い込みが問題となります。被相続人の死亡前に、相続人が引き出して費消した場合、対価を支払わないで利益を受けたとして「みなし贈与」(相続開始前3年以内の贈与)に該当するか、又は、被相続人に不当利得返還請求権が発生したとして相続財産を構成する債権として、相続税の課税対象となります。
預金の使い込みを行ったケースで素直に相続税を申告するケースはまれであり、後に税務署の調査を受けて(税務署は、関係者すべての預金を令状なしに自由に閲覧する権限を持っています。)、追徴課税されるケースもあります。
3. 預金等の使い込みのケースの解決までの期間
預金の使い込みにより、他の相続人の使い込んだ相続人に対する不信感は相当強くなります。
また、使い込んだ預金の履歴の調査や金額の確定、領収書の精査などとても煩雑で時間のかかる作業が多くなりますので、不動産の関係しない遺産分割や預金の使い込みがない通常の遺産分割手続に比べて、預金の使い込みがある紛争案件の解決までの期間は相当長くなります。
場合によっては、預金の使い込みの額を確定するまでに6か月以上かかるケースもまれではありません。そして、請求後、遺産分割調停でも話しあいがつかず、訴訟にまで移行するケースもまれではありません。
4. 一部の相続人による預金の使い込みを未然に防止する方法
預金の使い込みの原因をなくしてしまえば、預金の使い込みは未然に防止できます。
預金の使い込みの原因は、被相続人の財産管理能力の低下と、一部の相続人による独占的管理の継続です。
したがって、被相続の生前に認知症等に罹患し、介護施設等にお世話になり始めたら、なるべく早急に、保佐や成年後見を申し立て、裁判所が選任した弁護士に財産を管理してもらうこと賢明です。一部の相続人が保佐人や成年後見人となった場合は、その者による預金の着服の恐れもありますので、そのような場合は、保佐監督人や成年後見監督人の選任を家庭裁判所に申請することをお勧めしております。
弁護士が成年後見人や成年後見獲得人に選任されると報酬が必要となり、それに抵抗感を感じて、一部の相続人に財産管理を任せるという人も多いのが実情ですが、後々になって、多額の使い込みが発覚したケースに比べれば費用の面ではとても安くつくことになります。
最近の相談例では、父母が施設に入居後、財産管理をしていた長男の自宅の大規模な改修工事が行われ、その費用はすべて父母の預金から支出されていたというケースがあります。ご相談後、速やかに保佐申立を家庭裁判所に申立て、保佐人に選任された弁護士にお願いして、着服された1000万円が返還されました。
何事も、早期に専門の弁護士にご相談されることが重要だと思います。